※注目に値する記事を紹介する。
感染拡大 封じ込めはできるのか?
•田代眞人さん (元国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長)
•NHK記者
•武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)
武田:日本は武漢への滞在歴がない人の感染が明らかになりましたけれども、その
感染力というものがどれぐらいのものなのか、どこまで分かっているんでしょうか。
虫明記者:ウイルスがどのくらいの感染力があるのかを見る指標の一つに、患者1人からウイルスが何人にうつるのかを見る指標があります。
まず、はしかですと12人ないし18人。インフルエンザですと2人から3人となっています。今回の新型コロナウイルスは、今のところ1.4人から2.5人と発表されています。つまり、放っておくと感染はどんどん広がっていくということになります。WHOは23日の会合で、ヒトからヒト、さらにヒトへと感染がうつっていく「4次感染」があったと報告しているのですが、専門家はこうした感染の連鎖が次々と起きているのではないかと懸念しています。
武田:この新型コロナウイルスによる肺炎。果たして
封じ込めは可能なのでしょうか。
感染拡大 封じ込めはできるのか?
今後、私たちは
どうやってウイルスを封じ込めていくのか。
東北大学 押谷仁教授
「感染の鎖をいかに断ち切っていくか。(ウイルスの)封じ込めの条件になる。」
SARSが流行した際、WHOで対策の最前列にあたった押谷仁教授。
封じ込めの鍵となるのが「スーパースプレッディング」という現象を防ぐことだといいます。
SARSでは、多くの人が他人に感染を広げることなく症状が治まっていった一方で、まれに1人で何十人にも感染を広げるという現象が起きていました。これが「スーパースプレッディング」です。免疫状態が悪く、ウイルスを大量に排出する人が、閉鎖された環境で他人と接触するなどして起きるといわれています。
この現象が連鎖したことで、SARSは感染爆発を起こしました。感染の鎖を断つために各国がとった策は、感染者と接触した人を見つけ出し、隔離することでした。
例えばシンガポールでは、感染者と間近に接触した人を洗い出して、外出の禁止を命令。さらに、監視カメラで自宅にいることをチェック。徹底的な対策で封じ込めに成功しました。
東北大学 押谷仁教授
「やはり感染者を見つけ出して、早期に隔離するという戦略を組み合わせないと、恐らく封じ込めることはできない。」
ウイルスを封じ込めるためには、感染源を断つことも重要です。
今回、感染源として疑われているタケネズミやアナグマなどの野生動物。中国各地で食材としての人気が高まっています。
野生動物からのウイルス感染に詳しい 北海道大学 高田礼人教授
「(映像を見て)これ一番危ないシーンだと思います。内臓を取り出すところもそうなんですけど。触りますよね。素手で。生の血液だとか臓器、そういうものに接触するわけです、必ず。動物は何らかの病原体を持っているかもしれないと、一般的にそういうふうに思っていいわけなので。
野生動物を食べるという行為に関して、リスクがないとはいえない。」
北海道大学 高田礼人教授
「家畜の生産だとか、そういうものを世界的にサポートして、ちゃんとできるようにする。肉類の供給を自国でちゃんと賄えるようにするということが必要。」
新型ウイルスに対して、今後どのように対処すればいいのでしょうか。
虫明記者:感染が明らかになった当初、専門家が意識していたのは2003年の新型肺炎、SARSのようなものでした。これは主に濃厚接触による感染で、感染者の数自体は限られるのですが、一旦感染してしまうと重症化しやすくて、致死率が10%と比較的高くなるというタイプのものなんですね。ただ、今の状況を見てみますと、ちょっと違うのではないかという見方が出ています。まずは感染者のふえ方が早いこと。また軽症者が多くて、しかも軽症者でも感染を周囲に広げることがあると言われていまして、ウイルスを封じ込めるのが難しくなっています。
患者数は今後、SARSよりももっと多くなるのではないかと見られているんです。その場合に重要になってくるのが致死率です。致死率は、今は見かけ上は3%前後になっているんですけれども、実際には軽症の患者が把握されていなかったりするので、もっと低いのではないかと言われているんですが、もし低いのなら、どのくらい低いのかということなんです。毎年のインフルエンザのような、高齢で体力の低下した人に限られるのか。それとも、もっと幅広い年代で重症化のようなことが起きてくるのかによって、社会的なインパクトも違ってきますし、とるべき対策も異なる可能性があります。こうしたデータを早急に入手する必要があります。
中国総局 奥谷記者:武漢市の市長は、この封鎖までにおよそ500万人が外へ出たとみられると明らかにしています。歴史上、初めてとも言える町丸ごとの封鎖をもってしても、もう間に合わないのではないかという専門家もいます。どの程度の効果があるかは潜伏期が最大で2週間と言われていますので、その後、つまり来月上旬まではっきりしない可能性もあります。
武田:武漢市当局の初期対応の遅れや、情報開示の消極性が事態を悪化させたという批判も出ていますね。中国では、このことはどのように問われているんでしょう。
中国総局 奥谷記者:今のところ、あまりに急速な感染の拡大に対して、大部分の国民は息を潜めて様子を見守っているという状況で、大きな批判が巻き起こっているわけではありません。しかし、ネット上には不満をぶちまける書き込みも多く見られます。中には当初、政府が情報を隠蔽したことでこうなったと、ネットで状況を訴えた市民を警察が摘発するなど、国民の自由な発言を許さない当局の情報統制に問題があるといった意見も出ています。今回の感染拡大で中国政府への信頼が大きく損ねられていることは間違いないと思います。
栗原:続いて日本政府の対応です。けさの閣議で、新型コロナウイルスによる感染症を「指定感染症」にすることを決めました。具体的には、患者に対して入院を勧告し、従わない場合は強制的に入院されることができるほか、患者が一定期間は仕事を休むよう指示をできるようにしました。
武田:田代さん、こういった政府の対応をどう評価するのか、そして、
感染の広がりを正確に把握して迅速に対応していくために、どのようにしていくべきでしょうか。
田代さん:今回「指定感染症」に指定したのは、少し時間が遅れたかとは思いますけれども、必要な措置だったと思います。感染の広がりを、ある程度は押さえる手段がいろいろと取れるようになったということですね。それと同時に、先ほどからお話が出ていますけれども、患者が症状を出さないうちに、ほかの人に感染を広げてしまうということなので、待っていたのでは封じ込めができないと。ですから、積極的に感染が疑われる人を見つけ出して対応していかなくてはいけない。そのためには、全国レベルで診断体制と医療の提供体制を急いで確立することが絶対条件としてあると思います。
武田:政府、医療関係を上げて、そういう体制をとっていくということですね。
ワクチンや治療薬の開発というのはどのくらい進んでいるのでしょうか。
田代さん:SARSのときにはワクチンも治療薬も全くなかったわけですけれども、そのとき以来、さまざまな薬が開発されて、実用化される一歩手前までのものがかなりあります。そういうものを使って、今回のウイルスに対して効くかどうかを検証することが大事です。そのためには、ゼロからの出発ではなくて、ある程度有効な可能性のあるものがすでに報告されていますので、それからやっていけばいい。そうすると、SARSのときに比べれば圧倒的に時間が短縮できる。薬の場合には、早ければ、今あるものが使えるかもしれない。ワクチンの場合には、何もなければ1年半から2年かかる開発期間が、早ければ3か月から5か月くらいに短縮される可能性もあります。
武田:。私たち1人1人は、
どんな心構えでこれから臨めばいいのでしょうか。
田代さん:今まで言われているように、不要不急の外出を避けるとか、手洗いをするとか、マスクをするとか。それに加えて、さらに最悪の事態に進展する可能性があります。その場合には、政府によるさまざまな規制がかかってくるかと思いますから、対応できるようにきちんと心構えをする必要があると思います。